1.心臓歩調取り組織である洞結節に対するアセチルコリン(ACh)陰性変時作用のイオン機序を家兎洞結節の単離細胞、多細胞微小標本および洞結節全体を含む右心房標本を用いて検討した。単離洞結節細胞の自発興奮はphotodiode arrayを用いて光学的に測定し、多細胞標本からはガラス微小電極を用いて活動電位波形を記録した。AChにより活性化されるムスカリン性K電流(i_<k.ACh>)を特異的に抑制する低濃度B^<2+>(0.5mM)は単離細胞、多細胞微小標本ともにACh陰性変時作用の用量反応曲線を右方へ変位させた(多細胞標本ではAChのIC_<50>が0.08muMから0.3muMまで増加した)。一方、過分極活性化内向き電流(i_f)を特異的に抑制する低濃度のCs^+(1〜2mM)はAChの用量反応曲線を殆ど変化させなかった。洞結節を含む右心房標本における迷走神経節後終末の電気刺激による洞結節細胞自動能低下に対しても、低濃度Ba^<2+>(0.2mM)は抑制効果を示したが、低濃度Cs^+(2mM)は殆ど影響を与えなかった。これらの結果から、洞結節に対するACh陰性変時作用のイオン機序として、i_fの抑制よりもi_<K.ACh>の活性化が生理的に重要であることが明らかになった。洞結節細胞活動電波形の数値計算シミュレーション(Oxsoft Heart)に各種イオン電流系に対するACh濃度依存性作用を加味したモデルにおいても上記の結論を支持する結果が得られた。2.洞結節細胞に対するACh陰性変時作用は一定濃度のACh存在下においても時間とともに次第に減弱した(脱感作現象)。この脱感作のイオン機序を解明するため、単離洞結節細胞にパッチ電極によるwhole-cell clampを行い膜電流を記録した。ACh添加によるi_<k.ACh>の活性化はACh存在下に時間とともに2相性に減衰したが、i_fおよびbetaアドレナリン受容体刺激により増加したL型Ca電流に対するAChの抑制作用は減弱しなかった。従って、ACh陰性変時作用の脱感作現象はi_<K.ACh>の自然減衰によること、ならびにその分子機構としてムスカリン受容体以後(G蛋白あるいはイオンチャネル)の変化が関与することが示唆された。
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