細胞性血液凝固反応を明らかにする目的で、凝固因子の中で最も重要なトロンビンを生成するプロトロンビン活性化反応の分子機構を解析した。プロトロンビンは、凝固Xa因子(FXa)、Va因子(FVa)、Ca^<2+>、リン脂質からなるプロトロンビナーゼ複合体によって活性化されるが、昨年度はプロトロンビン分子中のクリングル2ドメイン内のHis^<205>-Arg^<220>の領域がFXaと相互作用することを示した。今回は、プロトロンビナーゼ複合体の中心的酵素であるFXa側の相互作用領域について解析した。まず、ヒト血しょうからプロトロンビン、FX等を精製し、FXから構成断片の軽鎖、重鎖、活性化ペプチドを単離した。また、FXaのGlaドメインと、Glaドメインを除いたGlaドメイン欠如FXaを精製した。さらに、FXaをメチレン処理してGlaドメイン内のgamma-carboxygultamic acidをメチレン化したFXa(メチレン化FXa)とAPMSFで不活化したAPMS-FXaを精製した。これらの誘導体を用いてプロトロンビン分子中のフラグメント2とFXaとの結合に及ぼす影響を検討した。FXaによるプロトロンビンの活性化の定量はトロンビン基質の Boc-Val-Pro-Arg-MCAを用いて測定し、フラグメント2に結合したFXaは、FXa活性をその基質のS-2222を用いて測定した。マイクロウェルプレートに固相化フラグメント2に対してFXaはKd=9.0x10-8Mで結合したが、Glaドメイン欠如FXaやメチレン化FXaは結合しなかった。さらに、この結合に対してGlaドメインとGlaドメインを含むFXの軽鎖およびAPMS-FXaは、この結合を阻害したが、FXの重鎖、活性化ペプチド、FXはこの結合を阻害しなかった。今回の研究結果からFXa内のGlaドメインがプロトロンビン分子中のクリングル2ドメインと相互作用することが明らかとなった。
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