心筋は短時間の虚血後再潅流により壊死には至らないが一過性の収縮不全を示す(スタン心筋)。最近、虚血再潅流時に細胞内Ca濃度が一過性に上昇すること、このCaオーバーロードが再潅流後の収縮不全の発生と関係していることが明らかとなったが、Caオーバーロードが収縮不全を起こす機序は明かとなっていない。そこで、Ca依存性に活性化されるプロテアーゼがスタン心筋発生に関与しているか否なかについて検討した。 モルモット摘出心を用い、37℃全虚血20分再潅流し、虚血再潅流モデルを作成した。15分虚血再潅流心(スタン心筋)に対し、プロテアーゼ阻害剤ロイペプチン50muMを投与した群では、非投与群に比し再潅流後の発生圧の回復率が良く(94.3±3.2% vs 78.1±3.2%)、最大Ca活性化圧も高値であった(168.0±4.6mmHg vs 144.5±5.7mmHg)。この事より、スタン心筋の発生に、細胞内プロテアーゼが関与する可能性が示唆された。次に、虚血再潅流時に細胞内プロテアーゼが基質とする蛋白を同定するため、再潅流後の心筋よりmyofibrilを精製し、構成蛋白の変化を調べた。30分以上の虚血再潅流した心筋ではalpha‐actininの減少が認められた。この減少は、虚血再潅流しなかった心筋では認められず、また、Caを加えない液で再潅流した心筋でも認めなかった。抗alpha‐actinin抗体によるWestern blottingによる検討から、虚血再潅流心では、全心筋画でalpha‐actininの減少はなく、cytosol分画で増加していた。このことより、再潅流時のCaオーバーロードにより、Zバンドよりalpha‐actininが遊離するものと考えられた。阻害剤による検討から、スタン心筋の発生に細胞内プロテアーゼが関与している可能性があること、虚血時間の長い再潅流心の解析より、Zバンドを構成する蛋白が、Ca依存性に変化されやすいことが明らかとなった。今後、スタン心筋で、このようなZバンドの構造変化が起こっているか検討する必要がある。
|