研究概要 |
本研究では、エンドセリン-1(ET-1)が心筋虚血の病態に憎悪因子として関与し、心筋に対する直接作用から特に電気生理学的変化、不整脈を誘発する原因となることを実験的に検討した。実験(1)ET-1による心筋虚血憎悪作用の証明(2)ET-1による心筋虚血時の不整脈発生機序の検討(3)ET-1抗体による不整脈抑制作用の評価。 (方法)雑種成犬10頭を静脈麻酔後両側開胸し左前下行枝バイパスを作成した。ET-1冠動脈内投与(150pmol/min持続投与)による心筋虚血と誘発された不整脈を冠動脈狭窄(20-40%冠血流減少)によるモデルと対比検討した。まず冠狭窄モデルの大動脈圧、冠淮流圧、冠血流量、心筋組織血流量(マイクロスフェア-法)を測定し、前後で高解像度心筋内マッピング法により不整脈の伝播様式および刺激伝播速度を検討した。さらに拍動心高速切断圧迫凍結装置により心断面NADH蛍光を撮影し、心筋虚血部位別の代謝産物(ATP,CP,NADH,NAD)を測定した。ET-1投与群でも同様に実験した。予定したET-1抗体は犬に使用できる量を入手できなかった。(結果・考案)冠狭窄群では有意な不整脈を生じなかった。ET-1投与群ではn=1は心室細動、n=2は電気的交互脈、n=2は上室性期外収縮を生じたが、心室頻拍あるいは心室性期外収縮を生じなかったため、心室を対象とする高解像度心筋内マッピング法は施行できなかった。すなわちET-1が催不整脈性のあることは有意であったが、その機序の検討はできなかった。ET-1により得られた虚血領域は冠狭窄より広範囲かつ心外膜側により強かった。測定した心筋組織血流および虚血代謝産物の違いでは説明できない点で、ET-1の血流減少によらない虚血憎悪作用の存在が示された。
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