腎髄質部細いヘンレの上行脚(以下ATL)をハムスター腎より微小単離し、例立顕微鏡上にセットさせた灌流槽に移した上で、マイクロマニピュレーターを用いて管腔内を微小灌流した。ATLの外液側に2uMのBCECF/AMを加え、室温にて30分間ATLをインチュベートし、BCECFをATL細胞内にトラップさせた。さらに、オリンパスのOSP-3装置を用いて、ATL内BCECFを励起し、コンピュータ解析により、細胞内pHを経時的に測定した。 定常状態でHepes緩衝リンゲル液中においてATLの細胞内pH(以下pHi)は7.05だった。溶液側のpHを低下させると細胞内pHも低下したが、管腔内pHを下げた際のpHiの低下は小さく、ATLのpHiが主に血管側のpHに依存していることがわかった。ATLの血管側のpHi調節系のメカニズムを明らかにするため、血液側のナトリウムイオンを除去するとpHiはすみやかに6.9以下に低下し、同側にアミロライド0.1mMを加えた場合にもpHiは同程度の低下を示した。NH_4CL loading法により、ATL細胞内酸負荷をおこなり、pHiの回復期の回復速度を観察したが、血液側のNaイオン除去と0.1mMアミロライドはいずれも回復を強く抑制し、Hポンプ抑制薬のN-エチルアレイマイドは回復速度に影響を与えなかった。さらにNEM(N-エチルマレイマイド)自体は定常状態でのpHiに対しては管腔側からも血液側からも変化をおこさなかった。これらの実験結果は、C0_2/HCO_3カロリンゲル液中でも同様に認められた。また、ATL外溶液中よりのKイオンの除去もpHiには影響を与えないことが明らかとなった。 以上のことからATLのpHiは血液側に存在するNa/H交換輸送系(アミロライド感受性)により主に調節されており、HポンプやH/K交換ポンプはほとんど存在していないとの結論に達した。
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