ジストロフィンの脳内機能の解明のため本年度はジストロフィーモデルである、mdxマウスの痙攣抵抗性につい検討した。この研究の動機はDMD患者のアンケートにおいて熱性痙攣の頻度が2.6%と一般小児における8-9%よりも有意に低値であることが判明したからである。mdxマウスとコントロールマウスであるB-10マウスそれぞれ15匹を用いて、Dixonのupanddown法により最大電撃痙攣の閾値を測定した。その結果mdxマウス20.69±1.83mAにたいしてB-10では16.06±0.91mAと、mdxマウスの方が有意(p<0.005)に痙攣閾値が高かった。またカイニン酸(30mg/kg、i.p.)による痙攣誘発実験では全例に痙攣が認められたが、痙攣までの潜時はmdxマウスで1488±312sec.にたいしB-10マウスでは453±34secとmdxマウスにおいて有意に(p<0.005)潜時は延長していた。しかしペンチレンテトラゾール(50mg/kg、i.p.)では痙攣までの潜時は有意差がなった。カイニン酸受容体のオートラジオグラフィーを行い、大脳各部位におけるカイニン酸受容体密度を検討した結果、大脳皮質、海馬、線状体においてmdxマウスでは有意に低下していることが判明した。Timm染色にてカイニン酸受容体を介する主要な神経伝達経路である、海馬苔状線維の亜鉛含有量を検討したところ海馬のCA3領域において有意に低下していた。以上より、mdxマウスでは誘発痙攣にたいし抵抗性をもっていることがわかり、その機構には少なくともカイニン酸受容体が関与していることが明らかになった。
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