今年度の研究では、大気圧化学イオン化液体クロマトグラフィー・質量分析法(LC/APCI-MS)による先天性代謝異常症の診断法の開発を試み、臨床医学への応用が可能であるか否かを検討した。 1)有機酸分析法の開発:LC/APCI-MSとしては日立M-1000Sを用いた。患者尿の前処理には、陰イオン交換カートリッジを用いる。特に排泄量の多い場合では、生体試料の直接注入による分析を行った。その結果、有機酸代謝異常症患者において、尿中異常排泄有機酸の検出・定量が可能であった。また、微量物質についてはLC/MSの選択イオン検出法により感度を上昇させることができた。従来のGC/MS法と比較して、特に前処理が簡便で短時間での測定が可能であり有用と思われた。 2)ポリオール分析法を応用した分析法により血清・尿中のグリセロールの測定を行い、複合型グリセロールキナーゼ欠損症の診断に適用し報告した。 3)また共同研究者により、LC/MSによる尿中グリシン抱合体分析を行った。イソ吉草酸血症患児におけるカルニチン投与時のisovalerylglycineの検出・定量を行い、その代謝動態について検討し報告した。 現在までのLC/MSによる有機酸分析法では、感度と同定に改良が必要と思われるので、今後は、さらに分析条件の改善を行い検討する必要がある。また、有機酸以外の物質として、ペルオキシゾーム病で増加が認められる極長鎖脂肪酸の分析や、各種ライソゾーム病で異常がみられる複合脂質の分析法を開発し、LC/MSの応用範囲を拡大してゆく予定である。
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