研究概要 |
ムンプスウイルスやインフルエンザウイルスなど,誰もが飛沫感染しうる普遍的なウイルスによる胎内感染が,先天性水頭症の発症に関与したことを示唆する臨床報告例が散見されている.このような報告例は,従来成因の明らかにされていない先天性水頭症の一部には,TORCH以外のより普遍的なウイルスによる胎内感染が,その発症に関与している可能性を示すものと思われる. 私はこれまで、新生仔ハムスターを用いた実験的研究により,ムンプスウイルスの脳内接種では90%以上に,パラインフルエンザウイルス3型の腹腔内接種では約18%の頻度で水頭症が惹起されうることを示した.さらに,両ウイルスともに脳室系上衣細胞に強い親和性を有すること,感染早期に生じる軽度の脳室拡大は感染を受けた上衣細胞のciliaの障害が関与していること,さらに,より高度は脳室拡大を呈する機序としてグリアの増生をともなう中脳水道の狭窄が主たる要因であること,などを明らかにしてきた.今年度においては,このようなミクソウイルスの経胎盤感染の可能性について検索する目的で,妊娠ハムスターの静脈内および胎盤内にムンプスウイルスを接種することによる先天性水頭症モデルの作製を試みた.その結果,静脈内接種ではウイルスが胎盤を通過しえないために水頭症は発症せず,-方,胎盤内接種では胎盤関門が機械的に傷害される結果,約20%に水頭症が惹起されることを明らかにした.以上の研究結果は,何らかの機序で胎盤機能が傷害された病態下では,ウイルスの胎内感染が成立しうることを示唆している. 以上の研究成果をふまえ,今後の研究においては,どのような因子が胎盤関門を障害しうるか,検索予定である,.
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