若年型慢性骨髄性白血病(JCML)と神経線維腫症I型の責任遺伝子(NFI遺伝子)との関連を明らかにする目的で、NFIに合併したJCML患者におけるNFI遺伝子の解析を行い、以下の結果を得た。 1.腫瘍細胞では、NFI遺伝子のexon29の3'末端の塩基がG→Aの点突然変異を起こしており、さらにSSCP法で同部の正常バンドの消失を認めた。exon29とexon30にわたるRT-PCRではバンドが検出されずこの間でスプライシングの異常があると考えられた。 2.本症例の腫瘍細胞はt(1p^+;17q^-)の染色体異常を持つ。この異常は一部のNFI家系に認められるものと同一で、その切断点はNFI遺伝子の一つのintron内にあることが知られている。その切断点近傍に存在するOligodendrocyte-Myelin Glycoprotein(OMGP)遺伝子をprobeとしたサザンブロット解析により再構成の検出を試みたが、本症例では再構成バンドは検出されず、家族性の場合とはNFI遺伝子の切断点が異なっていた。 患者の骨髄間質細胞(主に線維芽細胞)および同じくNFIの表現型を示す弟の末梢血単核細胞において、NFIexon29の同一の異常が認められたが、正常のアレルは存在していた。 以上の結果より、NFI遺伝子のexon29の点突然変異は胚細胞変異として遺伝的に伝えられたものであり、t(1p+;17q-)に伴う欠失が腫瘍細胞特異的な体細胞変異と考えられた。腫瘍細胞では正常なNFI遺伝子は存在せず、その正常な機能も失われていると考えられ、そのことが細胞を癌化させ、本症の発症をもたらした可能性を示唆するものである。今後、NFIに合併した症例に限らずJCMLにおけるNFI遺伝子を解析し、さらに本症との関連について研究を進めたい。
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