我々は、精神遅滞の発生機序を解明することを目的として神経系の発生の研究を行い、形態形成因子であるレチノイン酸が神経系の発生過程においても重要な作用を有することを明らかにした。 本年度は、レチノイン酸により発現が調節され、神経系の発生にも強く関与しているホメオボックス遺伝子の作用を解明するため、神経系の奇形および精神遅滞を有し、ホメオボックス遺伝子の異常が考えられる症例の検討を行った。 中枢神経系、眼球、内耳、骨等に広範な形成異常を有し、精神遅滞、痙攣を合併した症例において染色体の高精度分析を行い、17q21.3に切断点を有することを検出した。この部位は、ホメオボックス遺伝子群の一つであるHox 2クラスターの局在部位であり、ホメオボックス遺伝子が切断されたことにより形成異常が発生したことが推察された。その遺伝子を同定することは、ヒトにおけるホメオボックス遺伝子の神経発生における作用の解明に寄与すると考えられ、切断された遺伝子の検討を行った。 本症例に皮膚生検を行い、繊維芽細胞を培養した。 また、17q21-22領域の各遺伝子をヒトgenomic遺伝子ライブラリーからクローニングした。現在、クローニングした遺伝子各々で患者腺維芽細胞DNAとサザン解析を行い、切断点を有する遺伝子の同定を行っている。 切断点を有する遺伝子が同定されたらその塩基配列を決定し、また切断点を決定する予定である。
|