研究概要 |
神経芽細胞腫(Neuroblastoma;NB)は小児期固形腫瘍中、最も頻度の高い予後不良な悪性腫瘍である。このNBの予後を決定する因子としてN-myc遺伝子が知られており、N-myc遺伝子の増幅/過剰発現を示すNBは極めて予後不良である。また、こうしたNBでは正常神経細胞の分化/増殖に必須の、神経成長因子(NGF)に対する受容体(神経成長因子受容体;NGFR)の発現も抑制されていることが知られている。本研究ではNGF/NGRカスケードに着目したNBの発生機序解明およびその治療を目的に研究を行った。 1.ヒトNB細胞株(HTLA230)内に、高親和性NGFR受容体をコードすることが推定されているプロトオンコジーン trkA cDNAをトランスフェクションし、HTLA230-trkA細胞株を樹立した。 2.HTLA230-trkAはNGF短時間処置に伴ってimmediate early responseとしてのc-fosの一過性発現を示した。 3.HTLA230-trkAは、NGF投与後5分で、発現した140-kDa TRK-Aのチロシンリン酸化と、これに続くシグナル伝達路中間体PLC-gamma,ERK1,ERK2の活性化をきたした。 4.HTLA230-trkのNGF長期処置は増殖抑制を伴う形態学的分化と、各種神経特異的遺伝子の発現をひきおこした。また、N-myc遺伝子の発現は分化に伴って抑制された。 5.HTLA230-trkAのヌードマウスへの皮下接種、およびそれに続くNGF皮下投与は移植腫瘍のシュワン細胞への分化を伴う形態学的分化をきたした。 以上の結果はプロトオンコジーンtrkAの神経細胞内への導入が機能的NGF/NGFRカスケードを構築し、NGF投与に続いて、末分化神経細胞を最終分化へと導くことを意味する。また、このことは、NGF/NGFRカスケードを用いたNBの分化誘導療法の可能性を示唆する。
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