免疫応答の調節因子であるサイトカインが全身の各種細胞の増殖・分化制御因子としても作用することが知られるに至り、全身の生体機能が統合して研究されるようになってきた。砒素曝露者の皮膚症状として角化症、色素異常、腫瘍発生などが知られている。しかし、それらの発症の過程は殆どわかっていない。そこで申請者は砒素が表皮角化細胞の増殖を基調とする角化症を起こすことに着目し、表皮角化細胞の培養系を用い砒素添加による細胞増殖活性への影響とサイトカイン産生の変化についての研究に着手した。砒素を添加して培養した表皮角化細胞培養上清中の遺伝子産物としてのサイトカインとそれぞれのmRNAの発現、染色体学的観察による細胞増殖活性の両面からの統合的検索をおこなった。その結果、表皮角化細胞自体が産生するGM-CSFおよびTGFalphaが、砒素の添加によって産生量が増大すること、さらにGM-CSFおよびTGFalphaが砒素による細胞増殖亢進に関与していることが判明した。また、砒素添加による培養細胞のディッシュへの強い結合性が観察され、角化症発現のもう一つの要因である角化の貯留とも考えられた。現在、表皮角化細胞にて産生され得るその他のサイトカインであるIL-alpha、IL-6、IL-8やTNFalphaなどの砒素添加による変動、すなわち砒素による角化症でのサイトカイン・ネットワークについて研究を続けている。また培養細胞における接着因子の発現とも結び付けて考えて行く方針である。
|