慢性放射線障害の早期発見や予防は放射線治療上最大の課題である。慢性放射線障害は組織学的、生化学的、機能的定量法が考案されているが、必ずしも線量と十分な相関関係が確立されていない。とくに組織学的変化は最も重要であるが、その判定は主観的に行われている。慢性放射線障害の解析には、まず慢性障害を客観的に正確に定量化し、線量との相関が明確な方法の開発が必要である。本研究は、放射線照射後の正常組織切片に間質線維と血管弾性線維の特殊染色を行ない、顕微鏡像をビデオカメラで画像情報として収集し、この画像のコンピューター処理により間質線維および血管内皮の容積を算出し、組織像の慢性障害の程度と照射線量との関係を客観的に明らかにする。さらに、本手技を応用して、線量分割法の変更や放射線防護剤による慢性放射線障害の軽減作用を客観的に検討することを目的とした。本研究では以下の様な実験計画を立案し遂行した。 食道癌、肺癌で放射線治療後死亡した剖検例から、放射線照射部位と周囲の非照射部位の組織連続切片を作成した。特に食道癌のため腔内照射を行った症例では、線源配置にあわせて推定線量と組織変化を観察するため、組織標本作成部位を厳密に検討した。この組織標本をマッソン・トリメトロン、ワン・ギ-ソンおよびワイゲルト染色を行ない、ビデオカメラで間質線維と血管内皮の範囲と密度を画像情報として採取した。次いで画像情報をコンピューターにより再構築し、間質組織部の線維のみが画像上認められるようにし、放射線による間質組織の線維量変化を定量化し、照射線量と粘膜表面から間質、周囲組織までの影響をしらべたが、粘膜下組織への影響が認められるのみで、周囲組織までは繊維化を起こすほどでは無かった。また、有意に多い繊維化を起こす線量は、70-80Gy以上で、60Gy程度までは明らかな線維の増加は起こさなかった。
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