食生活習慣の欧米化は、結果として、従来比較的少なかった大腸癌患者の増加をもたらした。その中でも直腸癌の頻度が高いのは周知の事実であり、その部位と壁内深達度は、術式や予後そして患者のquality of lifeまでも左右する。従来からの検査法としてはバリウムを用いた注腸検査と、大腸ファイバー検査などがあるが、壁内深達度診断はその形態から間接的に類推されるにすぎない。またCTやMRIも応用されてはいるが、壁外浸潤の有無の診断にとどまっている。今回、腫瘍摘出術が施行され、かつ術前にMRIが施行された直腸癌症例はおよそ50症例である。患者は腹臥位とし、経肛門的に300〜600ccの空気を注入し、body coilを用いて通常のMRIを撮像する。続いて、そのMRI画像及び注腸所見を参考に体腔内コイルを腫瘤部分の内腔に留置しMRIを撮像する。通常のMRIでは壁内の層構造は抽出されず、壁外浸潤の診断にとどまったが、体腔内コイルを併用することによって、その壁内層構造の描出が可能となり壁内深達度の診断が可能となった。しかしその手技は繁雑で、適切な位置(腫瘤内)に体腔内コイルを留置するには熟練を要し時間もかかる。また通常のMRIは全結腸を通じ検査可能であるが、体腔内コイルを用いた方法では自ずとその適応が直腸に限られ、その内腔も体腔内コイル以上の直径を持つことが要求される。したがって狭窄が強い症例や完全閉塞をきたしている症例では施行できず、全例に行うことは不可能であった。これら直腸癌に対するMRI画像については、平成5年度中、シンガポールで開催された国際放射線学会ICR'94(1994.1.24-29)にて展示発表した。今後さらに症例を重ね、その有用性を確立していくと共に、体腔内コイルに改良を加えることによって、その適応範囲を拡大し検査時間の短縮化も試みる予定である。
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