研究概要 |
曹洞宗の僧侶20人(修行歴10〜40年の10人と修行歴5年未満の10人;それぞれM、D群)と坐禅の経験のない医師10人(C群)を対象に、坐禅中の脳波およびP300の変化を検討した。視察脳波では、坐禅を開始すると開眼のままでalpha波が出現し、さらに瞑想が深まるにつれ、より遅いalpha波あるいは前頭部に優勢なtheta波が観察された。alpha波の変化が、修行歴に関係なくすべての群の大部分に認められたのに対し、theta波の出現はC群にはみられず、M群の6人とD群の4人に観察された。脳波定量分析では、坐禅開始前の開眼安静状態、坐禅開始5分後、25分後の各記録時期の脳波を解析した。修行歴とstateについて、2元配置ANOVAを行い、相互作用がtheta2(FP1,F3,T5)、theta3(FP1,F3,T6)、theta2(FP1)に認められた。さらに下位検定より、修行歴の長い僧侶ほど、坐禅が深まるにつれ、theta2、theta3が著しく増加し、alpha2の増加の程度が抑制されることが示された。 theta波は傾眠・睡眠期以外にも、暗算・想起など課題遂行時の精神作業中に起こりやすく、無課題でも考え事に没頭した時や問題解決の時などに出現すると報告されている。坐禅は静坐して雑念を追わず、注意を内部へ集中させる努力を続け、無我の境地に自然に達するような修行である。本研究で観察されたtheta波は、修行歴の長い僧侶ほど、坐禅の時間的系かにつれて多く出現し、修行によってもたらされた坐禅の本質、すなわちリラックスしながらも過度な緊張の保たれ、かつ意識の集中の高まった精神状態を反映していることが示唆された。 さらに、坐禅中の認知機能・注意力の高さなどについて、認知機能の客観的指標として注目されているP300を用いて検討した。瞑想を妨げずに坐禅中にも適用が可能と考えられる受動的課題(sequence課題)を用いた。P300の潜時と振幅は、3群とも坐禅前と坐禅中で差がなかった。以上により、P300の結果は、theta波が有意に増加した坐禅中にも認知機能は低下することなく、坐禅前と同じ一定のattentionが保たれることを反映していると考えられた。
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