研究概要 |
平成5年度我々は、^<31>P-MRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)を導入し、新たにCSI(Cemi cal Sift Imaging)法を用いることによって、精神分裂病患者の前頭葉領域における脳内リン代謝及びその左右差について研究した。対象は滋賀医科大学付属病院精神科に入院中で、DSM-III-R診断基準により精神分裂病と診断され、かつ研究についての同意が獲られた27名(男性12名、女性15名)とした。それぞれの患者にはBrief Psychiatric Rating Scale(BPRS)評価尺度にて精神症状評価を行った。尚正常被験者群26名については年齢および性別をマッチさせた。結果は、精神分裂病患者群では正常被験者に比し、有意に前頭葉領域の左右両側でPME(フォスフォモノエステル)が低下していることがわかった。また分裂病では左側ではbeta-ATP(アデノシン三リン酸)とPCr(クレアチンリン酸)が有意に高かった。また前年度の結果では、精神分裂病群において前頭葉のPMEと感情的引きこもり,運動減退、感情鈍麻などの陰性症状との間に有意な負の相関があった。つまり陰性症状が強い分裂病患者で前頭葉のPMEがより低下していた。これらの結果より、PMEは神経細胞における膜リン脂質の前駆物質であると考えられているので、精神分裂病患者では正常被験者群に比べて、前頭葉の神経細胞の活動性が低下しており、その程度は陰性症状の強い患者でより顕著になるのかも知れない。従って、この結果は精神分裂病の"hypofrontality"を示唆させるものと思われる。また分裂病の前頭葉左側でbeta-ATPとPCrが高かったことは、その部位における高リンエネルギー代謝物の利用率の低下を示すことから脳内エネルギー代謝の低下を示唆させるものと思われ、やはり精神分裂病における"hypofrontality"を裏付けるものと考えられるが、優位半球においてその傾向が強かったことは注目すべきことである。
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