Phencyclidine(以下PCP)をヒトが乱用すると分裂病に酷似した精神症状を惹起することはよく知られており、これを動物に投与したときに誘発される異常行動は分裂病の動物モデルとみなされている。これは、これまで広く研究されてきたmethamhetamine逆耐性モデルとは分裂病の異なる側面・病態を反映していると考えられており、分裂病の横断症状モデルあるいは治療抵抗性モデルとみなされている。分裂病の病態および新しい治療可能性を検討するためこのモデルを用いてsigmaアンタゴニストの効果を検討した。また、比較として従来の抗精神病薬の主要な薬理作用であるドパミンアンタゴニストの効果もサブタイプ別に検討した。 PCP10mg/kgの単回腹腔内投与はラットに多彩な異常行動を生じ、Locomotion、sniffingを中心とした過活動と中等度から軽度のrearing、ataxia、head movement、弱いhead twitchingを生じた。PCPの主な薬理作用はN-methyl-D-aspartate(以下NMDA)受容体遮断作用であるが、この作用に選択性の高い(+)-dizocilpine 1mg/kgもほぼ同様の異常行動を生じた。これら誘発性異常行動に対しsigmaアンタゴニストのBMY-14802は用量依存的に全ての行動に拮抗した。また、rimcazole 50mg/kgもこれらの行動に拮抗し、その力価はBMY-14802 10mg/kgとはぼ同定度であり、sigma受容体への親和性の強さの順と一致した。一方、ドパミンアンタゴニストではD1/2アンタゴニストのhaloperidolとD1アンタゴニストのSCH 23390は強く拮抗したが、D2アンタゴニストのsulpirideは全くこれらの行動に対し作用しなかった。(+)-dizocilpine誘発性行動に対してもsigma antagonistはPCP同様に抑制した。 以上の結果はsigmaアンタゴニストがNMDA受容体に相互作用を示すことがin vivoで明らかとなると共に、sigmaアンタゴニストがPCP精神病やある種の分裂病の治療薬として有望であることを示唆するものと考えられる。
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