I今年度は周産期精神障害の中で特に頻度の高いマタニティーブルーズに関する文献研究と予備調査を第一に行った。その結果から諸外国の調査研究と国内での先行する調査研究とではその実態に大きな差があることが明らかになった。 IIこのため産直後から産後精神障害までを追跡調査する際、妥当性をもつ評価システムを策定することが求められた。今年度は(1)日本国内におけるマタニティーブルーズの診断基準の策定と、(2)産科臨床において実用性をもつスクリーミング法の検討を行った。 (1)マタニティーブルーズの診断基準について 海外との比較および多施設において実態を明らかにする際、その診断の基準を操作的に定義され一定の診断手続きを経れば一致した結果がえられる形式とする必要がある。操作的診断基準の一つであるRDC診断にならい診断基準を作成した。同時にこの診断基準をRDC診断に加えた構造化面接法を作成した。 (2)マタニティーブルーズのスクリーニング法の検討 前記のような診断基準にもとづき、九州大学医学部付属病院周産母子センターにて出産した妊産婦を対象に調査を行った。対象とした妊産婦に対し、産前の心理社会的指標、産後5日間のスタインの自己記入式質問表、産後3週間目の電話面接による調査を行った。報告の時点で調査を終えた妊産婦は30名であった。このうちスタインのブルーズ質問票をを用いた産後5日間の調査結果の英国の基準による判定に基づくスクリーニングではマタニティーブルーズの頻度は36.7%となった。RDC診断と前述のブルーズ診断基準に基づき作成した構造化面接(マタニティーブルーズ、産後うつ病スクリーニング面接法)を用いた電話面接の結果、23.3%の妊産婦が、マタニティーブルーズと診断され、その他に準定型うつ病13.3%、不安障害3.3%と診断された。 面接による診断の結果とスクリーニングの結果を比較し、日本国内でのスタインの自己質問票によるスクリーニングの妥当なカットオフポイントを検討したところ、英国と同じ8点となった。 日本国内においてもスタインの自己質問票を用い、8点をカットオフポイントとしてスクリーニングを行うことでマタニティーブルーズの出現頻度を多施設において検討することが可能と考えられた。 今後上述のようなスクリーニング法を用い産後精神障害の診断評価を行った褥婦をさらに追跡調査し、母子相互作用を記録評価していく予定である。
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