本実験は、精神分裂病における陰性症状(脱社会化、人格の崩壊など)を動物実験において再現し病態実験モデルを作成しようとしたものである。著者は、すでに画像解析装置を用いて2匹の実験動物の行動をXY座標に変化し、2匹の動物の間に起こる社会的行動を数量化し客観的に分析する方法を確立しており、この方法を利用してアポモルフィン(ドーパミン・アゴニスト)の少量1回投与がラットに他個体に対する"無関心"を惹起することを証明している。この"無関心"が何らかの方法(今回は少量のアポモルフィンの反復投与)で永続的なものとなれば、精神分裂病の陰性症状の有力なモデルとなりえるとの仮説のもとに今回の実験を企画する一方、ドーパミンとともに精神分裂病の精神症状に影響を及ぼしている可能性が示唆されているセロトニンについてもそのアゴニストを使用して社会性に及ぼす影響についての基礎的実験を計画した。 アポモルフィンの少量反復投与によって、無投薬の状態におけるラットの他個体に対する反応が減少するということは証明できなかったが、1匹時に関しては活動性の減少が明らかになった。少量のアポモルフィンを投与した場合、2匹時と1匹時の活動性はそれぞれ同程度抑制された。 セロトニン・アゴニストの投与実験では、1匹時と2匹時の間で移動距離の逆転が見られた。通常ラットは2匹時(他個体と居るとき)の方が移動距離が大きいことから、この現象は非常に興味深いものである。今後は、セロトニン系の社会性に及ぼす影響にも分野を広げていく予定である。
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