事象関連電位(ERPs)P300成分の発生機構を調べる目的で、脳器質性疾患を有する患者のERPsを記録しトポグラフィー的に解析した。対象は琉球大学医学部附属病院脳神経外科に入院中の患者16人で、術前および術後早期にのべ39回のERPsを測定した。疾患の内訳は、脳腫瘍12人、側頭葉てんかんの治療のための側頭葉切除術3人、正常圧水頭症1人であった。脳波記録は国際10-20法に従い頭皮上17部位から行い、ERPsの測定は聴覚刺激によるodd-ball課題を用い、日本脳波・筋電図学会の指針に準じて行った。脳波解析はシグナルプロッツサ-7T18およびDP2000(NEC-SANEI製)を用いた。 P300の潜時は術後延長する傾向が見られたが、術後経過とともに術前のレベルに近づいた。P300の振幅は脳腫瘍では腫瘍の部位によってトポグラフィーによるP300の中心部が腫瘍側に偏位するものと反対側に偏位するものがあり一定の傾向が見いだせなかった。これは腫瘍の部位や大きさ、病理組織による脳浸侵襲の違いなどの影響が考えられ、今後症例を増やし検討する予定である。側頭葉切除を行った3例では、術前はトポグラフィーによるP300の中心はほぼ正中に見られたが、術後1から2週間後はすべての症例でP300の中心は非切除側に偏位していた。この偏位は1例では術後4週目にはほぼ術前のレベルに回復したが、残りの2症例では回復が見られていない。この2症例については現在経過を追って記録を行う予定である。 脳腫瘍においてはP300の出現に一定の変化を見いだせなかったが、meningiomaのような占拠性の病変とglioblastomaのような脳実質の侵襲を伴う病変に分けて検討する必要がある。側頭葉切除術後の変化からP300の発生源の一つが側頭葉にあることが示唆される。しかし、術後に回復の見られる症例もあることから、P300発生源はいくつかあり発生機構が代償される可能性が考えられた。
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