今回は精神疾患についての精神生物学的な解明、特に反応及び行動の異常と考えられている神経症圏内の精神疾患について、その認知や反応的な特徴、それを生成する人格的背景などの生物学的機序の解明を目的とし、特異な認知障害を呈する強迫性障害患者をモデルとして、聴覚誘発性事象関連電位などを用いて、それらの認知及び概念学習機能について研究を行っている。対象者は大阪市立大学医学部付属病院に初診で来院し、同意を得られた、未治療でDSM-IIIRの強迫性障害の診断基準を満たすものとした。対象者には、来院時にYale-Brown Obsessive Compulsive Scale(Y-BOCS)とMaudsley Obsessional Compulsive Scale(MOCI)を用いて強迫症状の内容、程度、生活上の障害度などを評価した後に、Wisconsin card sorting test(WCST)とWechesler Adult Intelligence Scale(WAIS)により、脳内情報処理課程を評価した。その後に当科で所有する日本電気三栄のSYNAX ER 1100を用いて、認知機能を反映する電気的生理学的指標とされているP-300を、odd-ball課題を用いて導出した。治療的には、強迫性障害に有効と考えられているセロトニン再取り込み阻害作用を有するClomipramineを使用し、2週間おきにY-BOCSとMOCIによる強迫症状の改善度の評価を繰り返し、その改善度に併せて、P-300の導出を行っている。また強迫性障害患者群と、年齢や知的能力をできるだけ合わせ、同意を得た正常者を選び、正常対照群として同様の検査を行っている。現在のところ、継続中のものも含めて対象患者は10名である。これらの患者は、初診時のY-BOCSで22.3±7.2、MOCIで19.3±4.0と高得点で、正常対象者群に比し有意に高値を示した。また治療前のP-300に関しては、正常対照群に比して、潜時の短縮及び振幅の増大傾向が窺る。しかし対象者が少ないことやClomipramineに反応しない患者もおり、今後も例数を増しながら、経時的及び治療経過によるこれらの変化を更に検討、解析し、報告したいと考えている。
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