私共は、今回、血管内皮細胞より単離された極めて強力かつ持続的な血管収縮および血圧上昇を有する21個のアミノ酸からなるペプチドであるエンドセリン(ET)が哺乳類の中枢神経系に広く分布しており、特にET-1は血管内皮細胞以外にも大脳皮質、視床下部、線条体などの神経細胞でも産生されていることが確認されるという最近の報告に注目し、アルツハイマー型痴呆(ATD)において脳内血流量が低下するという放射線学的所見との間に何らかの関係があるのではないかと考え、ATD患者脳および対照脳においてエンザイムイムノアッセイ法を用いてET-1様免疫活性を定量的に測定し比較した。その結果、すべての脳葉でET-1様免疫活性は増加する傾向が見られ、特に、前、後頭葉では有意に増加が認められた。ATD脳において、これまでに増加傾向が認められたペプチドはガラニンだけであり、今回の所見は興味深いと思われる。ATD脳において増加したETが、血管平滑筋細胞に作用し、脳内の血管収縮を引き起こしている可能性があり、これが放射線学的に証明されている脳血流量の低下を生じさせる可能性が示唆された。また、ATD脳において対照群ではみられない前頭葉と側頭葉との有意な関係が認められ、通常とは異なった形でのET-1様免疫活性の増加が考えられた。今後は、ATD以外の痴呆脳においても同様の検索を行い、このETの増加がATDに特異的か否か検討し、また免疫組織学的研究を行ってETの由来、脳内分布を明らかにしていく予定である。
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