本年度の研究として、アミロイドの組織沈着が脳細胞に及ぼす直接影響の検討を実際のATD剖検脳で免疫組織化学的方法を用いて試みた。これまでもアミロイド沈着物の周辺にはグリア細胞の反応性増殖が起こることが知られているが、我々はグリア細胞をその膜成分であるガングリオシドGM1に対する抗体を用いて免疫染色する方法を用いることにより、正常グリア細胞のみならず崩壊したグリアの細胞崩壊産物の分布をも検索し、アミロイド沈着物周囲の細胞変化を詳細に検討した。その結果、老人斑のアミロイドコアを中心としてその周囲に多数の反応性アストログリアが出現しており、これらのグリアがコアの周囲で変性・崩壊を起こし、その崩壊産物が重なり合い、層を形成していることが判明した。このように老人斑形成過程においては、反応性のアストログリアは従来より指摘されているものよりはるかに多く出現しており、増殖と変性崩壊をアミロイド沈着物の周囲で繰り返し起こしていることが判明した。また神経細胞においてはガングリオシドGQ1に対する抗体を用いて検索した結果、やはり老人斑に接する部分で変性崩壊を起こしており、またその崩壊産物がアミロイドbeta/A4蛋白にそって分布していた。このように今回の研究で細胞膜成分に対する抗体を用いることにより細胞崩壊産物の分布が判明し、その結果はアミロイド沈着物に接して細胞変性が生じることを示唆しており、その細胞毒性仮説を実際のATD剖検脳で支持するものであると思われる。今後はさらにこれがアミロイド自体の影響なのか沈着過程に付随する現象によるものなのかを検索していく予定である。
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