精神分裂病の幻覚妄想状態は、ドーパミンの過剰が原因の一つとして考えられているが、その根拠の一つとして抗精神病薬の抗ドーパミン作用があげられる。しかし、近年、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)受容体の拮抗作用を有するフェンサイクリジン(PCP)によっても幻覚妄想状態が発現することが分かってきた。中枢における興奮性シナプス後電位(EPSP)は、NMDA受容体が賦活されることにより惹起されるものと、non-NMDA受容体が賦活されて惹起されるものとが同時に混在したものがほとんどである。既に、本人によって、ドーパミンがNMDA惹起EPSPをシナプス前性に選択的に抑制することが明らかになっているが、今回の実験によって、低濃度(1muM)のノルアドレナリンは、シナプス前性にNMDA惹起EPSPを僅かに増大させ、5muのノルアドレナリンでは、NMDA受容体惹起EPSPをシナプス前性にある程度選択的に抑制し、20muMでは、non-NMDAおよびNMDA受容体惹起EPSP両者を抑制することが分かった。したがって、ドーパミンおよびノルアドレナリンはNMDA受容体惹起EPSPをシナプス前性に抑制し、PCPは直接シナプス後性に抑制する。今回の実験は、幻覚妄想状態を誘発する物質が、NMDA受容体惹起EPSPを選択的に抑制するのではないかという作業仮説を支持すると同時に、ノルアドレナリンが濃度によって異なった作用を中枢に及ぼす可能性を示唆する結果となった。
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