研究概要 |
記憶やキンドリングとの関連が示唆されている海馬の機能がメタンフェタミン(MAP)の単回投与によって誘発される行動や中枢ドパミン神経系の変化にどのような影響を及ぼすかについての検討を行った。Wistar系雄性ラットを用いてイボテン酸により神経化学的に海馬を破壊した群(10-11週齢,6匹),リン酸バッファーにより疑似手術を行った対照群(10-11週齢,6匹),および老齢ラットに疑似手術を行った老齢群(40-42週齢,7匹)の3群において,海馬手術実施12日後に線条体にガイドカニューレの植え込み手術を施行し,その48時間後にマイクロダイアリシス法により採取したサンプルからHPLC-ECDシステムを用いてドパミンおよびその代謝産物であるDOPAC,HVAの変化をMAP2mg/kgの腹空内投与の60分前から80分後まで20分間隔で測定した。また,ラットの行動はSCANET SV10を用い,水平行動のM1(最小検出移動距離12mm),M2(最小検出移動距離48mm)および立ち上がり行動のカウント数をMAP投与の30分前から70分後まで5分間隔で測定した。MAP投与40分後の線条体のドパミン濃度はMAP投与前と比較して海馬破壊群では19.7倍,対照群では14.8倍,老齢群では10.2倍といずれも有意な上昇を示したが,その上昇率は3群間で有意差は認められなかった。一方,MAP投与60分後のDOPACは投与前基礎値にくらべ,海馬破壊群では0.33倍,対照群では0.32倍,老齢群では0.40倍であった。MAP投与60分後のHVAは投与前基礎値にくらべ,海馬破壊群では0.75倍,対照群では0.73倍,老齢群では0.86倍であった。以上の結果からMAPの単回投与により誘発される行動学的,および中枢ドパミン神経系の変化に対して海馬機能が影響を及ぼしていないことが示唆された。
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