(1)受容体ハイブリットをもつ細胞モデルの作製:インスリン受容体(IR)のC末端から365個のアミノ酸を欠くDELTA365IRをラット線維芽細胞に発現させた細胞株を作製した。その受容体でのハイブリッド受容体をインスリン様成長因子I(IGF-I)でラベル後IRに特異的な抗体で検出すると、ラベルされた総IGF-I受容体の約30%がハイブリッド受容体として存在した。 (2)ホルモン作用の検討:DELTA365細胞ではIGF-Iの受容体への結合、受容体を介するinternalization、IGF-I刺激によるチミジン合成促進作用は正常IRを発現した細胞と同様であった。しかし細胞から部分精製した分画でのin vitroでの受容体自己燐酸化はIGF-I、インスリン刺激のどちらによるものも欠如していた。すなわち自己燐酸化が障害されるようなキナーゼ部位をほとんど欠いた受容体とハイブリッドが存在してもその受容体を介するIGF-I作用が障害されていないという結果を得た。これは従来考えられいたキナーゼ活性をもたない受容体の存在は正常受容体のキナーゼ活性をも障害するというnegative dominant説では説明できず、受容体キナーゼを直接必要としないシグナル伝達経路の存在、あるいはキナーゼ部位そのものが通常はシグナル伝達に抑制的に働きその非存在はシグナル伝達促進に働いた可能性、などを考えさせる結果である。このDELTA365細胞を用いたインスリンシグナルに関する報告を共同研究として既に2編報告した。
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