研究概要 |
最近、インスリン受容体の内因性基質の一つであるpp180がInsulin receptor substrate-1(IRS1)として、cloningされ(Nature 352,73,1991)、その構造中に、Src homology2(SH2)regionと結合するYMXM motifが存在することが明かとなった。PDGFやEGF受容体のように、インスリン受容体に於ても、IRS-1を介してSH2 regionを有する分子の相互作用が存在することが明かにされた。 インスリン受容体はチロシン特異的キナーゼであり、そのキナーゼを介するシグナル伝達の調節機構には、逆反応であるProtein Tyrosine Phosphatase(PTPase)が関与するものと考えられている。近年、SH2 regionを有するPTPase(PTP1C)がBreast carcinoma cell lineからcloningされ、その分子内のSH2regionとEGF受容体との結合が報告された(Nature 352,736,1991)。我々は、IM9細胞やHepG2細胞に於て、同様なmRNAが発現しているかをPT-PCR法を用いて検討し有意な発現を認めた。これらの細胞RNAよりPTP1CcDNAをPCR法を用いて合成し、subcloning後、塩基配列を確認し、pGEX vectorを用いて融合蛋白として発現させ、同様に作成したIRS-1のYMXM motifを含む蛋白やインスリン受容体蛋白との相互作用を検討した。更に、最近、PTP1Cよりも多くの臓器で発現が確認されているSH2 regionをもつPTPaseの一つであるSH-PTP2に注目し、同様な検討を行ったところ、SH-PTP2が、in vitroでインスリン受容体キナーゼによりリン酸化されること、更に、インスリン受容体Cの末端に結合することを見いだした(Maegawa et al.Biochem Biophys Res Commun,194,208,1993)。更に、このSH-PTP2は、IRS-1にも結合することも見いだした(Ugi et al.FEBS Letters,in press)。一方、PTP1Cは、インスリン受容体によりリン酸化も受けず、結合も認められなかった。 これらの燐酸化やインスリン受容体、IRS-1との結合の生理的意義は現在不明であり、これらSH2領域をもつPTPaseのインスリンシグナル伝達機構における役割の解明は、今後の重要な課題である。
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