研究概要 |
各種腫瘍の発生、増殖には多くの癌遺伝子が関与している。甲状腺では、各種腫瘍の発生にras,ret,p53が関係していると考えられているが、未だ不明の点が多い。我々は二種類の甲状腺腫細胞株を樹立した。hAGは腺腫様甲状腺腫より樹立した細胞株であり、hPTCは乳頭癌より樹立した細胞株である。両細胞株ともTSHによりcAMPを産生するので、TSHレセプターmRNAの発現を調べたところ、4.0kbにTSHレセプターmRNAのバンドを認めた。両細胞株ともtyrosine kinase (TK)の活性化によりその増殖は促進されるという共通点を持っていたが、hAGはprotein kinase A (PKA)およびprotein kinase C (PKC)により増殖が促進され、hPTCはPKAにより増殖が抑制され、PKCには影響されないという相違点もあった。各細胞株の癌遺伝子の発現はノーザンブロット法のよった。TSH,Phorbol myristate 13-acetate(PMA),IGF-1の刺激前後で各細胞株より酸-グアニジン法によりRNAを抽出し、アガロースゲルにて電気泳動した後、ナイロンメンブレンに固定し、P^<32>にて標識した各種癌遺伝子とハイブリダイズさせた。細胞の転写活性と関連のあるmycはhAGにて正常細胞より高い発現があった。fosはPMAにてPKCを活性化すると一時間後をピークに発現が増加した。また、癌抑制遺伝子であるp53はhAG,hPTC共に正常細胞より発現が低下していた。TK活性を持つ癌遺伝子のうちret,srcの発現は両細胞株に認められなかったが、metの発現を両細胞株に認めた。metはTSH,PMA,IGF-1により発現の調節は受けておらず、細胞の癌化と関連しては、今後そのmutationを調べる必要があると思われた。
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