本研究の目的は、下垂体前葉細胞及び視床下部ニューロンの初代培養系及び動物個体を用いて、遺伝子発現調節に関与するホルモン作用(甲状腺ホルモンを中心として)の解析を細胞単位で行うことである。今年度、同テーマによる研究の結果、申請者は、下垂体前葉及び視床下部の無血清培地を用いた初代培養系を確立した。そして、視床下部の培養細胞では、視交叉上核より採取した細胞をにおいて、免疫組織化学的にvasopressin、VIP、somatostatinの発現を同定し、このうち、vasopressinが約24時間周期で拍動的に分泌している事を報告した。下垂体の培養細胞ではTSHbeta subunitの発現をin situ hybridizationによって同定し、この発現が甲状腺ホルモンによって直接調節されている事を報告した。現在、これらの培養系を用いて、リポソームを使い、細胞内への遺伝子の導入を試みている。動物個体を用いた実験では、室傍核小細胞区域において甲状腺を摘除する事によってc-erbAa2遺伝子の発現が上昇し、甲状腺ホルモンを補充する事によってこの上昇は抑えられる事を確認した。また、種々の組織において細胞の可塑性に関与するといわれているオルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子の発現がテストステロンの投与によって投与から約14時間後にマウス近位尿細管曲部において増加することを免疫組織化学、in situ hybridizationにより確認した。引き続き、甲状腺機能変化と共にODCが下垂体、視床下部においても変化するのではないかと考え、実験を行ったが発現量が低く、細胞を特定することができなかった。
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