慢性骨髄性白血病(CML)の発症過程において中心的役割を演じると考えられているBCR-ABL遺伝子産物[p210^<BCR-ABL>]の機能を評価するために以下の検討を行なった。 [1]薬剤選択マーカーとしてネオマイシン耐性遺伝子を有するp210^<BCR-ABL>の発現ベクターpGD210をヒトおよびマウス造血因子依存性細胞株(TFI&Ba/F3)に電気的穿孔法を用いて導入し、G418によって遺伝子導入細胞を選択した。 [2]これらの細胞集団を造血因子を含まない培地に移し、自律増殖能獲得の有無を調べた。この際、自律増殖クローンと依存性クローンそれぞれの樹立を試みた。 その結果、Ba/F3はBCR-ABL遺伝子の導入によって効率よく形質転換し、自律増殖能を獲得した。一方、TF1由来の自律増殖クローンは2株のみ得られた。この場合G418耐性クローンのほとんどがGM-CFS依存性の形質を保持しており、GM-CSFに対して親株とほぼ同様の用量依存性増殖を示した。ただし、これらのクローンを親株と比較した場合、造血因子非存在下においてより長期間生き延びる傾向が認められた。また、TF1由来の自律増殖クローンと依存性クローン各々におけるBCR-ABLmRNAの発現量をノーザン法で調べたところ、前者のほうが後者より高い発現を示すことがわかった。 BCR-ABL遺伝子がマウス個体においてCML類似の病態をひきおこすことは実験的に証明されている。しかしながら、従来BCR-ABL遺伝子の形質転換活性は、専らBa/F3のようなマウス造血因子依存性細胞に対して自律増殖能を賦与するという現象によって認められてきた。CML慢性期における腫瘍性造血前駆細胞は造血因子依存性の増殖分化を示すという事実を考慮すると、今回われわれが確立したTF1細胞のモデル系のほうがCMLの病態を反映したBCR-ABL遺伝子の機能を評価できると思われる。現在これらのTF1サブクローンを用いて、BCR-ABL遺伝子導入に伴う細胞周期制御蛋白質(サイクリン、CDK、c-Myc etc.)の量的、質的変化を解析中である。
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