研究概要 |
妊娠9.5日-11.5日のラット全胚培養を行い,培養液中に催奇形物質である蛋白分解酵素阻害剤のE-64を加えて,11.5日胚における形態異常の観察と,組織化学的検索を行った. 【E-64の全胚培養ラット胎仔発育に及ぼす影響】 培養液中のE-64の濃度を,0,1.5,3.0,5.0mug/mlと段階的に増加させ胎仔の発育度,形態異常の発生頻度を観察した.濃度依存性に,発育の指数である卵黄嚢径・頂殿長・蛋白含量は減少した.また,神経管閉鎖不全が0および1.5mug/mlでは全く認められなかったのに対して,3mug/ml群で16.7%,5mug/ml群で18.2%に認められた.また,眼胞形成不全が0,27.3,33.3,100%と濃度依存性に増加して発生し,体部回転不全も3.2,18.2,25.0,81.8%と増加した.コントロール群とE-64投与群で,神経管閉鎖部位の形態を光学顕微鏡・位相差顕微鏡(SEM)にて観察したが,細胞配列の乱れなどの異常は観察されなかった. 【神経管細胞表面における糖鎖抗原・細胞接着分子の局在に関する検討】 レクチンとしては,galactose系糖鎖を認識するDBA,RCA-I,GS-Iと,fucose系糖鎖を認識するUEA-I,LTAを用いた.FITC標識レクチン染色によったRCA-Iでは基底膜に強い親和性を有しているのが観察され,またLTAにおいては神経細胞に弱く結合していた.しかし,これらはE-64投与群においてもほとんど変化が認められなかった.GS-I,UEA-I,DBAはペルオキシダーゼ標識により染色した.GS-Iではコントロール群とE-64投与群で差が認められなかったが,UEA-Iにおいては上皮細胞に弱い染色がみられ,E-64投与により染色性が低下していた.DBAにおいては上皮細胞・神経芽細胞に染色が認められ、E-64投与群では染色性がほとんど消失していた.抗N-CAM抗体による神経細胞接着分子の観察ではコントロール群と投与群では差は認めなかった. 【BrdU(ブロムデオキシウリジン)による神経細胞増殖速度の観察】 全胚培養中に,BrdUを添加し,11.5日胚を調べたところ,E-64群で細胞分裂が亢進しているのが観察された. 【結論】 以上の結果より,E-64による神経系奇形発生のメカニズムとして,神経細胞間の接着因子および細胞表面複合糖鎖がE-64の作用で変化し,奇形発生の一因となっている可能性が示唆された.
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