研究概要 |
【目的】肝の代謝に及ぼす交感神経刺激の作用を検討し,ノルアドレナリンの作用と比較し,ATPが交感神経のCotransmitterとして作用している可能性を検討した. 【方法】ラットの肝をKrebs-Henseleit緩衝液で経門脈的に低圧灌流し,1mMのオクタン酸を添加した.肝門部の交感神経を電気刺激し〈NS群〉とした.1mMのノルアドレナリン(NA),50muM ATP,0.2muM ATP+1muM NAを注入しそれぞれ〈NA群〉,〈ATP群〉,〈ATP+NA群〉とした.各群とも腹部下大静脈より灌流液を経時的に採取し,流量,ブドウ糖および乳酸,ケトン体の放出量を測定した.さらに各刺激による肝組織内ケトン体含量を測定した. 【結果】刺激により各群とも流量が減少し,ブドウ糖,乳酸の放出が増加した.〈NS群〉ではアセトアセテート(AcAc)とbeta-ヒドロキシ酪酸(HOB)とも放出が減少(AcAc:-0.37±0.04,HOB:+0.31±0.15mumol・min^<-1>・gliver^<-1>)した.しかし〈NA群〉ではAcAcの放出は減少したがHOBは減少せず(AcAc:-0.33±0.03,HOB:+0.04±0.03mumol・min^<-1>・gliver^<-1>)神経刺激の効果を再現しなかった.この結果より交感神経の作用においてNA以外の伝達物質の関与が示唆された.〈ATP群〉はAcAc,HOBとも放出が減少し〈NS群〉の効果を再現した.しかも,このとき〈NS群〉と〈ATP群〉では肝組織内HOB含量は有意に増加していた.ところが〈NS群〉の効果はカテコラミンのalpha-blockerにより抑制されてしまいATPの関与は否定的と考えられた.そこで,流量及び代謝に影響のない0.2muMのATPを作用させNAとの相互作用を検討した.その結果〈ATP+NA群〉ではAcAc,HOBともに放出量が減少し〈AcAc:-0.39±0.11,HOB:-0.24±0.05mumol・min^<-1>・gliver^<-1>)交感神経刺激の効果を再現することができた. 【結語】肝の交感神経刺激伝達にも,ATPがCotransmitterとして作用している可能性が示唆された.神経作用のメカニズムは複雑であるが,その作用は肝再生にも影響することが知られており重要である.移植後肝の代謝機能をより生理的に保つためには自律神経による代謝メカニズムをさらに検討し把握する必要があると考えられた.
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