小児外科を中心に外科手術患者から術前術後に採尿を行い、ヒト尿中トリプシンインヒビター(UTI)の測定を行った。新生児症例では6例(腹壁破裂、臍帯ヘルニア、横隔膜ヘルニア、大腸穿孔、胃破裂、出血性腸炎)全例で術前よりUTIは367±241(mean±SD)U/mgCrと高値を示し、手術後も一週間は100U/mgCr以上の高値を持続した。乳児症例では鼠径ヘルニア11例、腸重積3例、虫垂炎穿孔4例で測定を行った。術前に炎症所見のない鼠径ヘルニアの術前値は5.65±1.63U/mgCrと低く、術後にも有意な上昇を認めなかつた。鼠径ヘルニアの術前値と比較すると、腸重積および虫垂炎穿孔例では術前からそれぞれ25.1±10.7U/mgCr、180±120U/mgCrと有意な上昇を認めた。虫垂炎穿孔例ではUTI値は特に高く、症状の改善に伴って低下した。成人例では食道癌3例、胃癌14例、虫垂炎穿孔2例で測定を行った。食道癌と胃癌の待機手術症例では術前値は4.96±2.61U/mgCrで、術後に全例上昇を認め、手術開始から12時間から72時間の間に最高値となり、その後低下した。これは急性相蛋白CRPの変動と類似していた。また、UTIの最高値は食道切除術249±147U/mgCr、胃全摘術104±34.8U/mgCr、胃亜全摘術60.5±20.1U/mgCrで外科的侵襲の大きさに比例して高値を示す傾向があった。虫垂炎穿孔例では乳児症例と同様に術前から178±89.1U/mgCrと有意な上昇を認め、症状の改善に伴って低下した。 以上の結果より、尿中UTIの測定は乳児から成人まで手術後の炎症の状態を把握するために有意義であり、かつ手術侵襲の程度をよく反映すると思われた。一方、新生児では術前炎症がないと思われる症例でも尿中UTIは高値を示しており、また術後の上昇程度も著しく、成人とは異なる意義づけを要すると思われた。新生児の非手術症例でも測定を行い、測定意義を確立する必要がある。
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