研究概要 |
直腸癌術後には、術式によりその程度は異なるが後遺症として排尿障害が高頻度にみられる。そこで我々は、直腸癌術後に生じた排尿障害に対して鍼治療単独、もしくは薬物療法の併用で治療を行い、その臨床効果について検討した。 対象は、本学附属病院外科において直腸癌、肛門癌の拡大郭清を伴う根治手術施行例で、症例は全て術前、術後に尿流動態検査(urodynamicsstudy 以下UDSと略す)を施行し、膀胱尿道機能、利尿筋括約筋協調不全(detrusor sphincter dyssynergia 以下DSDと略す)の有無を調査した。そのうち術後排尿障害がみられた6例に対し治療を行った。治療は、鍼治療単独、鍼と薬物療法の併用で行った。鍼治療は、術後のUDS施行後より連続して6日間行った。使用経穴は両側次〓(B32)穴とし60mm20号鍼を用い、3Hzの連続波で10分間の低周波鍼通電を行った。治療効果の判定は、鍼治療前後のUDS,残尿量測定をもとに行った。 手術後のUDS所見においては、膀胱機能は正常膀胱1例、過活動性膀胱1例、無活動性膀胱4例であった。尿道括約筋機能は正常2例、過活動性4例であった。6例のうち4例にDSDが認められ、5例において病的残尿(30ml以上)を認めた。鍼治療後のUDSにおいては、膀胱機能は正常膀胱2例、過活動性膀胱1例、無活動性膀胱3例であった。尿道括約筋機能は全例正常となり、DSDは全例消失した。また、術後病的残尿を認めた5例は全て正常域に復した。 以上の結語から直腸癌術後の排尿障害に対し、鍼通電療法は副作用もなく、DSDの消失や残尿量の改善がみられたことから、鍼刺激は利尿筋と外括約筋の協調不全の是正をもたらすことが示唆された。
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