胸部食道癌はその生物学的悪性度の高さの故に高頻度の頸部リンパ節転移を起こす。このため頸・胸・腹部の3領域にまたがる広範なリンパ節郭清が行われるようになったがこれに伴い手術侵襲は増大し術後呼吸循環動態は2領域郭清時に比べ不安定となり呼吸器合併症に難渋することがしばしばとなった。従来の3領域リンパ節郭清手術では右迷走神経心臓枝が切離されていたことに注目し同神経の温存術式を開始し術後呼吸管理の難易について検討を行った。また気管支動脈温存の有無についても検討を行った。3領域リンパ切郭清を行った胸部食堂癌腫術後の咯痰吸引のための気管支ファイバー施行回数の合計、術後最低動脈血酸素分圧(PaO2)の比較を行った。結果は以下の通りであった。 術後咯痰吸引のために必要であった気管支ファイバー施行回数、および術後最低動脈血酸素分圧は、気管支動脈、右迷走神経心臓枝がともに温存された群はともに切離された群に比較して有意に良好であり臨床的意義を大いに認めた。今後はどのような生理学的メカニズムでこのような良好な結果が得られたのかを解明していく予定である。
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