左肺を全摘した幼若犬に、成犬の左肺下葉を移植しうるか否かすなわち生体からの部分肺移植の可能性を実験的に検討した。ビ-グル成犬を全身麻酔下に左開胸し、左肺下葉を摘出した。摘出した左肺下葉は4℃のEuroCollins液500mlで灌流し、冷却した生理的食塩水に浸漬保存した。ほぼ同時にビ-グル幼犬も麻酔下に左開胸し、左肺を全摘した。先に摘出保存しておいた成犬の左肺下葉を幼犬の左胸腔内に移植した。すなわち移植肺葉の肺動脈、肺静脈、気管支をそれぞれ幼犬の左肺動脈主幹、左心房、左主気管支に吻合した。移植肺葉の虚血時間は2時間であった。成犬、幼犬ともに術後の回復は順調であった。幼犬は移植3日目に、拒絶反応のために死亡したが、剖検により各吻合部の開存が確認された。また、術後2日間は少なくとも移植肺は機能していたと考えられた。成犬は現在も生存中であり、生体部分肺移植が技術的には可能であることが示唆された。 今回の実験では免疫抑制剤を投与しなかったが、臨床応用にあたっては免疫抑制剤の至適投与時期、投与量、投与方法などの検討が必要となろう。今後実験動物数を重ねるとともに、免疫抑制剤を使用し、より臨床に近い条件での実験を進めたい。
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