雑種成犬にて、単純阻血氷冷却群と20mmHgの圧による腎静脈からの逆行性腎潅流群につき、腎臓の保護効果の研究を行った。単純阻血氷冷却群では、腎臓の温度は開始前平均33.6度から60分阻血後平均21.2度と低下していたが、逆行性腎潅流群では潅流量も0.10ml/min/kgと少ないためか、開始前の34.3度から60分の逆行性潅流後も、34.2度と高く逆行性潅流による冷却効果はほとんど認められなかった。さらに組織内の好気性代謝維持の指標となる保存60分後のアデノシン燐酸化合物は、単純阻血氷冷却群で、ATP平均0.22mumol/g、ADP平均1.20mumol/g、AMP平均1.22mumol/gに対して逆行性腎潅流群では、ATP平均0.03mumol/g、ADP平均0.57mumol/g、AMP平均0.70mumol/gと、著明に低下しており、逆行性腎潅流は腎臓の好気性代謝維持の効果もほとんどないものと考えられた。さらに、単純阻血氷冷却群の保存60分後の腎臓の水分含有量は平均79.7%であったが、逆行性腎潅流群の水分含有量は平均82.1%と高値であり、逆行性腎潅流群では逆行性潅流による腎臓の浮腫が観察された。これらの結果から、腎臓の保存には氷冷などによる低温度の維持が重要で、逆行性腎潅流は温度低下の効果もなく、むしろ逆行性腎潅流による浮腫という障害が発生しており、有用と言うよりも有害と考えられた。しかし、現在は60分保存後の再潅流による影響の研究を行っておらず、両群の再潅流後の更なる研究が必要と考えられた。
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