脳死状態となったドナーからより良いドナー肺を得るためにはどの様な投薬、処置を行うべきであるかを検討することがこの研究の目的である。実験動物として家兎(体重2.0〜2.5kg)を用いた。まず脳死モデルの作製を行った。 脳死作製方法はケタミン+ネンブタールで麻酔後、経口挿管下に調節呼吸を施行、頭蓋内バルーン法で脳死状態を作製した。予め、大腿動脈、肺動脈、下大静脈内に圧測定、採血用のカニュレーションを施してある。家兎(n=15)において、脳内バルーンを5mlの生理食塩水で膨張させ、脳圧を亢進維持させると、心拍数は125±26b/mから一端洞性徐脈(最低値44±11b/m)となった後に洞性頻脈(最高値221±28b/m)となり、かつ心室性不整脈が多発した。 体血圧(大動脈平均圧)は85.4±15.2cmH_2Oから最高値180.6±40.2cmH_2Oまで上昇(P<0.05)、肺動脈平均圧は20.5±5.3cmH_2Oから最高値40.7±11.9cmH_2Oまで上昇した(p<0.05)。バルーン膨張後30分後には、ほぼ前値に復し、以後低下、減少する傾向を認めた。 このバルーン膨張後30分後までに15羽中5羽が不整脈が増悪し、心室頻泊、心室細動に移行し死亡した。なお、このバルーン膨張後30分後の段階で、神経学的反射の欠如および犠牲死させた家兎(n=2)の脳幹部を含む脳実質の挫滅を組織学的に確認した。 以上より30分経過した時点を脳死開始時点とすることとした。この脳死開始後、なんら輸液、投薬を行わない条件では脳死後2時間以内に平均大動脈圧は40cmH_2O以下まで低下し、8羽中5羽が心停止に至った。 この間の動脈血液ガス分析では脳死開始時点では無処置の同条件での調節呼吸下での対照血液ガスと有意差のない値を示した。しかし脳死後1時間後値(n=6)は65.3±25.6torrと対照値(125±15.5torr)と比較し有意に低い値を示した(p<0.05)。 脳死後にはその血行動態の調節と血液ガス悪化を防ぐ処置が必要であり、現在必要とする適正輸液量およびカテコールアミンの種類と量について検討中である。さらにこの家兎ドナー肺を摘出、保存しその保存肺機能の面からも検討する予定である。
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