最近我々は早稲田大学理工学部応用化学科の土田英俊教授らと共同してヒトの赤血球膜を除去し、酸素運搬機能を持つヘモグロビンのみを取り出し、これをリン脂質の重合膜のなかに包埋することにより、血液型に関係なく使用できる人工酸素運搬体(人工赤血球)を作成することに成功した。 この人工酸素運搬体は生理学的に安定で、凍結した状態、あるいは乾燥した粉末の状態で長時間の保存が可能である。生理学的に調製された状態においては、その粒径は0.2mum、溶液粘度は3cP、浸透圧は297mOsm、pHは7.4であり、酸素親和性についてはP_<50>が24mmHg、Hill係数が2.4であることが、in vitroの実験により確認された。 ラットにこの酸素運搬体を投与し、血液学的な検討を行ったところ肝機能、腎機能、免疫系等に影響を与えないことが確かめられた。 体重約8kgのビ-グル犬を用い、室内気調節呼吸下に全血液量の30%の脱血交換実験を行った。まず30ml/kgの脱血を行い、その30分後にこの人工酸素運搬体を静脈内に投与し、投与後3時間まで、動脈圧、肺動脈圧、中心静脈圧、心拍出量、動脈血および混合静脈血の血液ガス、血液生化学等を測定した。人工酸素運搬体を静脈内に投与すると、すみやかに動脈圧、心拍出量は回復し、酸素運搬量、酸素消費量を経時的に計算したところ、この人工酸素運搬体がショック状態にある生体内においても酸素運搬能をもつことが確かめられ、また6ヶ月以上の長期生存が得られた。我々はさらに体重8kgのビ-グル犬を用い70%の脱血交換実験を行い、生体内における安全性を確認した。主要臓器の病理組織学的な所見については現在検討中である。
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