広範囲の気管及び気管分岐部切除に対し、同種移植による再建の可能性と限界について検討した。 1.雑種成犬20頭を対象に、同種移植片の拒絶反応に関する組織学的検討を行った。非免疫抑制犬では上皮・気管腺の修復が認められず、軟骨の障害も徐々に高度となり、間質では線維化を伴った肉芽増生が認められた。拒絶反応に特異的な単核球早期には認められなかった。経時的な組織障害度を自家移植片と比較したところ、移植後早期の拒絶反応の診断として上皮の修復障害がきわめて有用な組織学的所見の一つであった。 2.雑種成犬6頭を対象に、あらかじめ4cm以下に設定した自家移植片により再建できる気管欠損範囲の限界を検討した。移植片にかかる張力が1kgを越える16ringの欠損部の再建は困難であったが、犬胸腔内気管の全長にあたる14ringでは、移植片に0.7kgしか張力がかからず、良好な生着を示した。次に、雑種成犬6頭を対象として、移植片にかかる張力を軽減する目的で、宿主気管周囲の授動の範囲について検討した。14ring気管欠損部に対し6ring自家移植片による再建を行い、宿主気管周囲の授動を行わなかった群、気管前方の授動のみを行った群、そして気管全周の授動を行った群の3群について比較検討したところ、気管前方の授動のみを行った群だけが移植片の良好な生着が得られた。広範囲気管欠損に対し移植片が短くても再建は可能であるが、授動は最小限にとどめなければならないことが判明した。 3.雑種成犬6頭を対象に、気管14ring+気管分岐部に至る欠損に対し6ring自家移植片による再建を行い、気管+気管分岐部の移植による再建の可能性を検討した。術中呼吸管理が順調であれば問題なく、今なお全例生存中である。胸腔内の気管及び気管分岐部は十分移植により再建可能である。
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