医療用シリコンは生体材料として汎用されており、脳神経外科領域でも水頭症に対する髄液短絡管に利用されている。しかし種々の要因で短絡管の機能不全が起こる問題を残している。その中で短絡管の断裂の原因となる劣化の問題、閉塞の原因となる短絡管の生体に対する反応等、短絡管の素材が関与する要因も考えられてきた。今回フッ素系高分子化合物であるFNYの短絡管の新素材としての可能性につき検討した。 FNYは現在短絡管に使用されているシリコンゴムと比較して、化学的に安定な物質であり、腐食・劣化が起こりにくく、長期間の生体内への留置に適している。また熱に対しても安定であり、379℃まで熱変性を起こさない。生体適合性の評価として、素材表面でのマウス線維芽細胞(3T3)の細胞増殖の程度の比較を行い、FNYでは良好な細胞増殖が示された。またマクロファージによる補体活性をchemiluminescene法にて検討を行ったが、FNYはシリコンと比べ補体活性が低く、生体内での異物反応も少ないことが示唆された。 またウイスターラットの腹腔内への移植では、シリコンプレートでは1週目よりリンパ球の集族が強く、異物型巨細胞の出現も多数見られた。さらに2、4週目にはその傾向が強くなり、腺維芽細胞様の細胞も多数見られた。一方FNYプレートでは1週目より細胞密度が少なく、リンパ球の出現は見られるも、集族は認めなかった。また異物型巨細胞の出現頻度も少なく、その傾向は2、4週目にはさらに顕著であった。 生体反応が少ないと考えられてきたシリコンゴムはFNYに比べ早期から巨細胞や線維芽細胞の出現などの異物反応が見られた。このことは髄液短絡管の腹腔管の主な閉塞物質である線維性組織の発生に大きく関与していることが示唆された。またシリコンゴムより生体反応の少ないFNYは腹腔管閉塞を減少できる新しい素材となる可能性が認められた。
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