短時間脳虚血後の海馬における遅発生神経細胞死の原因につき、引き続き酵素組織化学的に検討した。実験はこれまで通り砂ネズミの両側総頸動脈の5分間間紮モデルを用いて行い、以下の結果を得た。 1.これまでの中心課題である錐体細胞原形質膜Ca^<2+>-ATPaseとミトコンドリアcytochromec oxidase 活性の変化につき更に詳細な検討を加えた結果、海馬CA1領域において前者では、血流再開後6時間後という早期から活性が減弱するのと対照的に、後者では血流再開後3日目まで活性を保ち、その後減弱してゆくことが明らかになった。即ち、原形質膜Ca^<2+>-ATPaseの早期からの減弱により細胞内Ca^<2+>濃度は増加方向に傾くが、ミトコンドリアにおけるCa^<2+>緩衝機構の働きにより、netの細胞内Ca^<2+>濃度が虚血後3日目までは増加せず、その後のcytochromecoxidase 活性の減弱に対応した細胞内Ca^<2+>濃度の増加により、遅発生に細胞死が起こるものと考察された。 2.錐体細胞原形質膜におけるguanylate cyclase および5′-uncleotidase の短時間脳虚血に伴う活性変化について検討した結果、少なくとも短時間脳虚血直後には両酵素とも減弱していることを明らかにした。しかし、本現像はこれまで検索したいずれの酵素でも見られるものであり、血流遮断による膜機能の一時的停止に伴う普遍的なものと考えられる。両酵素のその後の変化については更に検討中である。 本年度は新たに、遅発生神経細胞死におけるCa^<2+>-ATPaseの免疫組織化学的変化を検討することを目的に、Ca^<2+>-ATPaseの抗体作成に着手した。即ち、Penninston らの方法によりヒト赤血球膜を可溶化し、カルモジュリンカラムを用いてCa^<2+>-ATPaseを抽出する作業である。しかしながら、本作業によって得られるCa^<2+>-ATPase蛋白の収率は著しく低く、今後多くの時間を要する見込みである。
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