過去当院で摘出された髄膜腫症例38例中、脳組織への浸潤を示さない29例と、浸潤を示す9例について増殖能(PCNA及びAgNORs)の検討を行った。増殖能は統計的に有意差を持って浸潤を示す髄膜腫の方が高く、また再発しやすい傾向を示した。特にこれまで病理組織学的に良性所見と考えられていた、finger-like for-mationを有する髄膜腫でも、脳-腫瘍境界部の被膜が一部消失し、腫瘍が直接脳実質と接しているような所見を有するものでは、被膜を有する髄膜腫より増殖能が高いことが示された。また、浸潤を示す髄膜腫では、病理組織学的に脳組織側の神経膠細胞の反応が強く生じている所見が得られ、さらに、脳表から腫瘍内への血管の取り込みも生じていることが観察された。これらの結果から、髄膜腫の脳への浸潤は、増殖能の違いが原因の一つと考えられる。しかし、脳組織の反応や血管新生などが、高い増殖能だけでは説明できず、浸潤を示す髄膜腫の細胞間接着因子の関与が考えられた。 これらの症例と新たに摘出された症例をもちいて、免疫組織学的に細胞間接着因子の違いを検討した。その結果ファイブロネクチン、テネイシンの発現が、浸潤を示す髄膜腫症例に発現しやすい傾向が示唆され、このような髄膜腫では、これらの細胞間接着因子が、脳への親和性に関与している可能性が考えられた。しかし、このような傾向を示さない症例もみられ、他の要因(PDGF、FGFなどのgrowth factorやmatrix metalloproteinase)の関与が今後の研究課題となろう。
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