研究概要 |
正常脳に及ぼす影響を観察する目的で14C_-デオキシグルコース法による糖代謝ならびに、チトクロームオキシダーゼ組織化学法による酸素代謝の測定を行った。脳挫傷作成2時間後、挫傷脳周囲に糖利用率の著明な亢進が認められた。そしてそれに続く1,2日後においては、脳挫傷同側に広範な糖ならびに酸素代謝の低下が認められ、脳挫傷は周囲正常脳組織に対しても代謝的影響を及ぼし二次的易損傷性を示しているものと考えられた。次に、挫傷脳の二次損傷促進作用の原因のひとつに、挫傷脳からの興奮性アミノ酸(グルタミン酸)の放出による細胞毒性が考えられる。そこで微小脳透析法を用いて、アミノ酸濃度をHPLCにて測定した。挫傷脳内のグルタミン酸濃度は最大8.5倍と著明な高値を示し、挫傷脳近傍(1.5mm)においても最大3.5倍と有意の高値を示した。最後に興奮性アミノ酸拮抗作用を持つCO^<2+>イオンが与える影響について検討した。CO^<2+>イオンを潅流液中に加え、局所投与しながら興奮性アミノ酸濃度の測定を行った。挫傷脳におけるグルタミン酸の濃度は影響されなかったが、周辺の脳組織において有意に低値を示した。この結果は、グルタミン酸の上昇が挫傷脳からの拡散だけではないことを示している。すなわち、CO^<2+>は脱分極に伴う神経終末からのグルタミン酸の放出を抑制することから、周辺脳のグルタミン酸濃度の上昇には、一部正常脳からのグルタミン酸の放出が関与していることを意味していると理解された。以上をまとめると、1)脳挫傷内、および周辺脳組織においてグルタミン酸濃度が上昇する。2)周辺脳で認められるグルタミン酸の上昇は挫傷脳からのものと、正常脳神経終末からのグルタミン酸放出が関与している。3)このグルタミン酸濃度の上昇は脳挫傷周辺での二次的神経細胞障害の形成に重要であると考えられた。
|