【目的】脳卒中患者の錐体路障害の客観的評価、ならびに予後判定のため、経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位の経時的測定とグリセオール負荷による誘発電位の変化の検討を行った。 【方法】当院に入院した高血圧性脳出血患者において、急性期(3日以内)、亜急性期(1週間)、慢性期(1ケ月)で運動誘発電位を測定し、その際、併せてグリセオール200mlを点滴静注し、その前後で変化を検討した。刺激は円形コイルと8字コイルを用いて行った。記録は上肢では母指球筋、下肢では母指伸筋の筋電図を記録した。 【結果】(1)両コイルを用いても麻痺がないにもかかわらず運動誘発電位が記録できなかった症例があった。(2)運動誘発電位の振幅は個体差、測定条件の影響が大きく、評価の対象にはならなかった。また潜時は健常例では平均で上肢が21msec、下肢が50msecであったが、身長差の影響があり、有意差を評価するには困難であった。(3)波形は麻痺の程度とよく相関し、自力運動不可の症例では出現せず、自力運動可の症例では波形が見られる事が多かった。(4)急性期に自力運動がなく波形が認められなかった症例で慢性期に運動が回復した例では波形が回復していた。(5)グリセオール負荷で波形の出現や、潜時の短縮した症例は認められなかった。 【総括】今回の検討では麻痺の程度と運動誘発電位の所見は相関している場合が多かったが、一部麻痺がないにもかかわらず測定できない場合があった。またグリセオール負荷や誘発電位の波形により急性期において運動機能予後を判定するのは困難であった。今後問題点として、(1)刺激方法の画一化とそれによる波形の再現性向上、(2)潜時では個体差が大きいため、頭部刺激と頸部刺激での差を用いた中枢伝導時間による詳細な検討、が必要と考えられる。今後症例を積み重ねる予定である。
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