微小な機械的脳損傷を与えたマウスが脳虚血に高い抵抗性を示すこと、また、軽度脳虚血が再脳虚血後の遅発性神経細胞死を抑制することが示され、その原因の一つとして内因性神経栄養因子(NTF)や熱ショック蛋白(HSP)の関与が示唆されている。もし、損傷された脳に発現した因子が脳虚血に対して保護的な活性を呈するのであれば、それらは虚血による細胞障害をも抑制することも考えられる。しかしながら、それらの因子の虚血に対する抵抗性の発現時期および時期については明かでない。細胞内Ca^<2+>(〔Ca^<2+>〕_i)の上昇は、虚血性神経細胞障害における重要な因子の一つとされ、脳組織の〔Ca^<2+>〕_i測定は、虚血による細胞障害を評価する上で重要とされる。特に、脳切片灌流標本を用いるin vitroの系では〔Ca^<2+>〕_i変化を測定でき、虚血性灌流モデルを用い、脳切片における〔Ca^<2+>〕_i上昇から細胞障害を評価することが可能である。そこで、本研究では、蛍光カルシウム指示薬fura-2で染色したマウス海馬切片灌流標本を用いて、虚血の灌流条件(低酸素+無グルコース)による〔Ca^<2+>〕_i上昇の濃度変化を測定、画像解析を行ない、損傷近傍組織に惹起される虚血に対する抵抗性を細胞レベルから検索した。 機械的脳損傷後の低酸素+無グルコース灌流脳切片標本実験における細胞内CA^<2+>上昇は、損傷部近傍において損傷後1日と3日に有意に抑制されたが、損傷後2時間、7日および14日では非損傷切片と有意差がなかった。これらのことより、損傷後1〜3日に虚血性〔Ca^<2+>〕_i上昇を抑制する機序が誘起され、虚血に対する抵抗性が高まっていることが示唆された。しかし、虚血性〔Ca^<2+>〕_i上昇を抑制する機序の解明には、尚、検討を要し、今後も研究が必要である。
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