星状神経節ブロックの明確な作用機序、ひいては頭頸部交感神経系の神経解剖学的な支配領域を詳細に確定することを目的とし、ラットを用いて本研究の計画をたてた。ラットをネンブタールにて麻酔し、右星状神経節に神経標識物質(WGA-HRP)を微小ガラス電極を使用して注入。2日後に灌流、固定を行い、両側の交感神経節、脳血管や大動脈等の血管、および脊髄を取りだしてのち、血管は全載標本として、他はゼラチンにて包埋後クリオスタットにて65muの厚さの切片とした。それぞれについてHRP-TMB反応にて順行性、逆行性標識を行い、交感神経線維の走行の分布を観察した。星状神経節に注入を行った場合の標識性は明瞭であり、頸部血管系および、前肢の血管に神経終末を持つ像が観察された。また、注入側とは反対の左の交感神経節にも標識細胞が強く現れ、左右の交感神経系が密接な連絡を持つことが確認された。しかしながら、この連絡は、左右の交感神経が直接的な投射を持つとは考えにくく、両側の神経終末が緊密に接触する部分での神経標識物質の移送によるものと考えられる。さらに、ヒトにおいて、頭頸部の交感神経支配のうえで重要な位置を占めるのではないかと推測されている中頸神経節に対しても標識物質の注入を行った。星状神経節に注入を行った場合にみられる、頸部血管系に対する神経終末が、脳底部、あるいは顔面の血管においてその標識性が非常に弱いことから、この部位の交感神経支配は中頸神経節由来であることが想像された。しかしながらラットにおいては、中頸神経節を露出するため、鎖骨の一部を除去し、かつ鎖骨下の血管を傷つけない、というかなり困難な手術が必要なため、信頼に値する標識性が得られていない。今後は、手術における到達法などを再考慮し、さらなる追跡を試みる予定である。
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