血管内皮細胞依存性血管拡張因子(EDRF)による肺循環の制御が、吸入麻酔薬によってどのような影響を受けるかを明かにするため実験を行った。 フィラリア無感染の雑種成犬を用い、麻酔下に大動脈・肺動脈・右・左心房に圧測定カテーテルを、左肺動脈に電磁血流計プローベを、右肺動脈にオクルーダーを装着し、手術後2週間以後、右側臥位で各血流・血圧測定中、オクルーダーにて肺血流を左肺にシフトさせ(〜1分)左肺における圧-流量関係を測定し、肺血管抵抗を評価した。意識下と麻酔下(イソフルレン呼気終末1.7%)の2条件下で、(1)薬剤投与前(麻酔下の条件では、麻酔前後にて測定)、(2)前収縮としてU46619(thromboxane analog)持続静注開始後、(3)内皮細胞依存性血管拡張剤(アセチルコリン:0.01〜10mug/kg/min、またはブラディキシニン:1〜10mug/kg/min)、または内皮細胞非依存性血管拡張剤(SIN-1:1〜20mug/kg/min)投与中において測定した。各薬剤の血管拡張作用は、覚醒時と比較して麻酔下では、以下のようになった。アセチルコリン:拡張作用の減弱が有意に見られた。ブラディキニン:拡張作用が減弱する傾向が見られた。SIN-1:拡張作用が増強する傾向が見られた。以上の結果より、吸入麻酔剤イソフルレンは、内皮細胞依存性血管拡張剤の作用を減弱させ、内皮細胞非依存血管拡張剤の作用を増強させる傾向が見られた。慢性実験のため、途中で脱落する例数が予想より多く、今回の期間では統計処理の対象となる例数が6と少なかったため、アセチルコリンのプロトコールでしか有意差が出なかった。アセチルコルンに関する結果は現在学会発表準備中である。
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