低酸素性肺血管収縮反応発生機序の1つの要因としては低酸素による内皮由来性血管弛緩因子(主に一酸化窒素、以下NO)の抑制が考えられているが、最近これに否定的な報告もあり、本研究ではラット摘出肺動脈標本を用いて以下の様に解析した。1.内皮由来性NOが低酸素性収縮に及ぼす影響:内皮正常肺動脈標本では低酸素により大きな収縮を生じるが、内皮除去標本では生じない。内皮正常標本における低酸素性収縮はフェニレフリン等による前収縮を要するが、その前収縮張力には依存しない。この低酸素性収縮はNO合成を特異的に阻害するナイトローL-アルギニンやグアニレートサイクレースを抑制するメチレンブルーで阻害されるので、低酸素が内皮由来性NOを抑制して生じていると考えられる。2.平滑筋由来性NOが低酸素性収縮に及ぼす影響:内皮除去肺動脈標本にインターロイキン-1betaを加えてインキュベートした標本(IL-1beta群)とその溶媒を加えてインキュベートした標本(コントロール群)について検討した。正常酸素下でIL-1beta群では、フェニレフリン等の収縮がコントロール群に比し有意に小さく、またL-アルギニンにより著明な拡張が見られ、これはナイトローL-アルギニンにより抑制されること等により、IL-1beta群でNOが遊離されていることが示唆された。低酸素によりIL-1beta群の標本では著明な持続する大きな収縮を生じるが、コントロール群では生じない。IL-1beta群の低酸素性収縮もフェニレフリン等による前収縮を要するが、その前収縮張力には依存しない。この低酸素性収縮はナイトローL-アルギニンやメチレンブルーで阻害されるので、低酸素が平滑筋由来性NOを抑制して生じると考えられる。3.まとめ:内皮存在下、非存在下でもNOが遊離されている際には低酸素性肺血管収縮が見られ、これは低酸素がNO合成/遊離を抑制することにより生じると考えられる。
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