現在、吸入麻酔薬の主流であるイソフルレン、エンフルレン、セボフルレンは、体動脈血圧や内臓領域血流の調節に重要な役割を担っている腸間膜細動脈において、内皮正常標本、内皮除去標本、ならびに内皮由来弛緩因子(EDRF)の阻害薬の存在下において、血管平滑筋に対して抑制作用を示した。このことは、この3つの吸入麻酔薬の内臓抵抗血管拡張作用の少なくとも一部は、内皮非依存性、EDR下非依存性であることを示している。また、3つの吸入麻酔薬の血管拡張作用に有意差を認めなかった。更に、エンフルレンとハロセンは、内皮除去標本において、細胞外Ca除去液中で、一過性の収縮を引き起こし、細胞内Ca^<2+>貯蔵部位よりCaを放出せしめている可能性が示唆された。 各種吸入麻酔薬は、大動脈において、内皮依存性弛緩反応を抑制することが知られているが、内臓抵抗血管においても、EDRF阻害薬に感受性ならびに非感受性のアセチルコリン(Ach)による内皮依存性弛緩反応を可逆的に抑制した。また、各種吸入麻酔薬は、内皮除去標本において、ニトロプルシッドによる弛緩反応に影響しなかった。このことは、これらの吸入麻酔薬が、EDRFの産生または放出を抑制している可能性を示唆した。さらに、各種吸入麻酔薬は内皮依存性の振動性収縮反応を可逆的に抑制し、上記所見を支持した。 各種吸入麻酔薬の内皮機能に対する抑制効果は、各種吸入麻酔薬の血管収縮反応(効果)を示唆するが、いずれの吸入麻酔薬も、臨床的に関連性のある濃度で、生体内において血管平滑筋の緊張維持に重要な役割を担っている交感神経系の伝達物質であるノルエピネフリンによる収縮を強く抑制した。このことは、各種吸入麻酔薬が、その内皮機能抑制作用いより内臓領域血流を低下させる可能性を否定するとともに、麻酔中の低血圧の原因の一部は、各種吸入麻酔薬の血管平滑筋に対する直接抑制作用であることが示唆された。エンフルレンやハロセンによる収縮反応は一過性であり、内臓血流を障害する可能性は低いと考えられた。
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